【2】夏川草介「始まりの木」読了
読書:始まりの木
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タイトル:始まりの木
作者:夏川草介
ページ:315ページ
あらすじ
東々大学文学部の大学院生である主人公の藤崎千佳は、片足を引きずり杖をついて歩く偏屈で変わり者な民俗学者、古屋神寺郎に振り回されながらも彼の研究室で荷物運び兼研究として旅を共にしていく。その中で明らかになる、古屋の過去。そして度々起きる不思議な体験と共に地域に根ざす古い「神様」の存在に触れていく。
”民俗学の研究は足で積み上げる”
古屋の揺るがない哲学ではあるが、配慮の欠く発言も多く敵を作りやすく、彼に対する評価は実績に批評よりも感情論に終始し、心ない人などは「三本足の古屋」と陰口をいう者もいる…。
感想(ネタバレありのため注意)
夏川さんの文章は優しく温かみがあるので、読み進めやすく、読書の入りにとても良い分量と文章だと毎度思います。
物語の中で出てくる数々の場所の美しい情景は頭の中で描くことができ、舞台となった場所を巡ってみたいという気持ちが大きくなりました。手始めに、帰省した時に京都は鞍馬に行ってこようと思います。
主人公の性格は、あっけらかんとして切り替えの早い明るい女の子。そして、古屋という教授は、地位や名誉にとらわれず研究に没頭する高名な民俗学者。性格ゆえ敵も多く、ファンも多い面白い人物。そして古屋の口調は、これまで読んできた夏川作品に出てきている主人公に共通した話し方をしていて面白い発見をしています。毒気はおそらく古屋の方が強めですが…。
人々は古くから神様を祀り、道標としてきましたが、少しずつ失われつつある。それでも、心のどこかにいるどこか目に見えない大きい存在。
信ずるべき神はいなくとも、感ずる神様というのはいるなあ、と奈良で育った私は思います。神社やお寺が多くあるのもありますが、目に見えない雰囲気が神様を感じる道標となっていました。
不思議な出来事は決して怖い出来事ではなく”神様のお導き”という言葉に似つかわしく、柔らかな暖かい余韻をくれるものが出てきて温かい気持ちになります。
”同行二人”の意味を私はこの小説で初めて知りました。
「お遍路はたとえひとり旅であっても、お大師様が寄り添ってくれる二人の旅だという意味だ。仮に五人で旅しても一人一人が弘法大師と一対一という関係は変わりない」
四国霊場とはそういう場所なのだと改めて知ることができました。
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