【1】夏川草介「臨床の砦」読了
読書:臨床の砦
タイトル:臨床の砦
作者:夏川草介
ページ数:ページ
あらすじ:
長野県の地域と密接に関わる県内唯一の感染指定病院である小さな公立病院を舞台に、本来、消化器内科である医師が新型コロナウイルスと向き合い日々奮闘していく小説です。
時期としては新型コロナウイルスの第3派の時期の話。地域医療と密接に関わっている市内病院は高齢者の患者が多く、さらに感染受け入れ病院としての大変過酷な状況と現場と行政の認識の乖離、他の病院からの受け入れ拒否など、フィクションでありながらノンフィクションなのではないかと思うほどに、現在のコロナの医療現場の状況を小説として分かりやすく描かれています。
感想:
夏川草介さんのお話は、「神様のカルテ」シリーズを愛読させていただいています。超高齢化社会の中、過酷な地域医療を担う病院で働く医師の話を毎度題材にされていて、作者も現役の医師であることを少し前に報道ステーションで出演されていて知りました。
作者は見た目や話し方から小説の主人公のようで、「臨床の砦」や「神様のカルテ」シリーズはフィクションという名のノンフィクションに近い小説なのではないかと思いました。(二度目)
どんな時も冷静(に見える)主人公ですが、心の中では様々な葛藤、恐怖があり不器用ながらとても人間味の溢れる、医者を「人間」だと改めて認識させてくれるキャラクターをしていて、彼を取り巻く人間たちは主人公を暖かく見守り、時には怒り、対立もし、協力し、支え合い、決して悪意を持った何かは登場しません。
それもあってか、過酷で終わりが見えないようなコロナの現場を題材にしていても、読んでいて心が温かくなりました。神様のカルテシリーズもそうですが、夏川先生の描く小説は悲しい部分も優しく温かく包み込み、お医者さんが「人間」であることを気づかせてくれます。
新型コロナという未知のウイルスとの戦いで医療が沈黙を守りながら必死で命と向き合い、守り続けてくれていることを改めて感じられます。第一線で医療を守り奮闘しているお医者さんは日々、私たち非医療者以上に感染の恐怖と戦っているのだということを感じました。
仕事柄、新型コロナの状況の時系列をある程度把握してはいるものの、医療現場がどうなっているのかは医療に携わらない私には、時々取材されたり公開されるニュース映像でしか知ることができません。第3派のころを題材にしているので、あの頃はこんな感じだったなあと考えながらも、医療の側で疲弊している人を改めて知りました。
「クルーズ船」という言葉が出てくるのですが、懐かしい響きを帯びていて、「あの頃」を思い出してしまいます。クルーズ船がたどり着いた時期、中国「武漢」で発見され、流行していた新型コロナウイルスは、びっくりするほど早くまん延し、「コロナ前」と「コロナ後」を作り出してしまったように思います。
そんな中で、新たな変異株であるオミクロン株がまん延する昨今はまさに医療現場にとってはかなり厄介だろうと思います。この時期のお話も読んでみたいなあとか、想像を膨らみました。